電子タラコ

　電子タラコって太いよね。彼女はタラコから口を離して笑った。いや、タラコは太いものでしょ。軽く返しつつ、彼女の口紅とタラコの紅を見つめる。
　スコッチにスモークサーモン、日本酒に明太子。酒好きを公言して憚らない彼女。入社以来いくつの仕事と酒席をともにしただろう。コレステロール、血圧、血糖値。少しでも健康でいてほしくて半ば無理に電子タラコをすすめた。飲む量はそのままだから大差ないよ。苦笑しながらも電子タラコを続けている彼女を見る度、嬉しくなった。
　あなたはどうするの？　真新しい指輪が光る左手に電子タラコを持ち、彼女が微笑みかける。
　紅のネイルから電子タラコを抜きとる。彼女の紅を映したタラコに唇が触れる。唐辛子フレーバーの微かな痛み。ふぅっと息を吐く。私のルージュはタラコの紅に残るだろうか。
　スモークされちゃった。目尻の涙をぬぐいながら、彼女は笑った。