吾亦紅(六)

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「それで、帝はお産みになられた」
「神に仕えた身で殺生などならぬ。先の帝は朕の兄で、位を譲る先が、妹の斎宮しかない。北の宮から都の宮中に入るだけの事。帳の内で胎を育て、産み落とした後、側仕えの鏡女に預け、里子に出させた」
その鏡女が二心を起こしたか、純粋に帝や皇子を思ってかは判らぬが、地楡は故郷の北境へ流れ着き成長し、それがやがて帝の知る所となった。
「朕は位に就き、夫を持ち皇子姫皇子を持ち、皇子が成人すれば位を譲る。捨てた父無し児の為に、皇統も世も乱す事などならぬ。鏡女は始末したが、児が生きてある限り不安は去らぬ。故に……」
地楡の言い伝えを流し、触れを出し、そこへ薬猟師が名乗りを上げた。

「地楡は……皇子は、元より明かすつもりも、世を乱す企みも毛頭ございませんでした。ただ静かに生きたかったと」
帝の御心は十分に痛み、意趣返しもこれで済んだ。
「皇子の餞に、御形見を頂戴したく存じます」
ミステリー・推理
公開:19/09/12 01:30
更新:19/09/20 19:24

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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