セミとサンタ

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私が学校から帰ると、父と母は喧嘩をしていた。
私は自分の部屋でほとぼりが冷めるのを待った。
「ほとぼり」を検索するうちに日は暮れて、おなかが減った私は台所に行った。
母はスリッパに隠れていた。
かすかに鳴き声が聞こえるから大丈夫だとは思うけれど、娘としては心配だ。
「そんな所にいたら踏まれちゃうよ」
母はアブラゼミ。いつまでも残暑は厳しいけれど、季節は秋。例年なら母はいなくなる頃だ。
「何を言われたの?」
私が聞いても母はミンミンと鳴くだけ。
私は父の部屋に怒鳴りこんだ。
「母さんに謝りなさいよ」
ものすごい白ヒゲに赤い毛布のようなコートを着た父。
「お前が母さんを欲しいって言ったんだろ」
「どうしてセミなのよ」
「靴下に入る母さんって他にないだろ」
「でも」
「お前喜んでたじゃないか」
「返品なんて言えないもん」
そのときだ。天井にいた母が鳴きだしたのは。
それが、母を見た最後になった。
公開:19/09/11 16:28
更新:19/09/11 19:43

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