残り香
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別れた夫は消毒薬の臭いの人でした。
病院勤めの仕事柄、手洗いうがいはもちろん、着替えや入浴も頻繁にするのですが、脱いだ服、タオルに浴室まで、消毒薬の臭いが充満しました。注射のエタノール綿の様な、プールの塩素水の様な、つんと鼻を突く感覚に、私は憂鬱でした。
家中どこにいても追い掛けてくる臭い。寝る時など、まるで体内から薬液に浸される具合で、触れられた部分がオキシフルを差された様にひりつきました。
別れを切り出したのは夫でした。
内心私はホッとして、離婚届に判をつきました。
その時初めて打ち明けられた事には、夫は生まれ付き、常人の持たない芳香腺を持つ人で、それが汗と混じり、消毒薬の様な特有の臭いを発するのだという事でした。
今まで済まなかったと言って彼は出て行き、その後消息を絶ちました。
そして現在、私は家中に消毒薬を撒き散らします。皮肉な事に、妊娠のせいで体質が変わってしまったのです。
病院勤めの仕事柄、手洗いうがいはもちろん、着替えや入浴も頻繁にするのですが、脱いだ服、タオルに浴室まで、消毒薬の臭いが充満しました。注射のエタノール綿の様な、プールの塩素水の様な、つんと鼻を突く感覚に、私は憂鬱でした。
家中どこにいても追い掛けてくる臭い。寝る時など、まるで体内から薬液に浸される具合で、触れられた部分がオキシフルを差された様にひりつきました。
別れを切り出したのは夫でした。
内心私はホッとして、離婚届に判をつきました。
その時初めて打ち明けられた事には、夫は生まれ付き、常人の持たない芳香腺を持つ人で、それが汗と混じり、消毒薬の様な特有の臭いを発するのだという事でした。
今まで済まなかったと言って彼は出て行き、その後消息を絶ちました。
そして現在、私は家中に消毒薬を撒き散らします。皮肉な事に、妊娠のせいで体質が変わってしまったのです。
ホラー
公開:19/09/07 22:12
更新:19/12/10 19:51
更新:19/12/10 19:51
本当だったら怖い仮定の医学
自家消毒
汗腺症
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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