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蝉を狙って棒でばんばん叩く子供をたしなめた。
らしくもない、就活で煮詰まっているせいかな。
ふう。
靴紐を結び直そうとしゃがんだら、地面にぽつぽつと穴。
蝉の穴か。
指を入れてみると、ひんやりしている。
次の瞬間、べらぼうな力で向う側に引っ張り込まれた。
声も出せず、風圧に耐えていると
すぽん!
そこは茂った木の枝の上だった。
「いらっしゃい」「いらっしゃい」
無数の蝉が僕を取り巻いている。奥から、紫に透ける翅を震わせ、可憐な女性が現れた。
「助けてくださってありがとう。あちらで私たちの宴にお着きください」
涼やかな調べを奏で、舞い踊る蝉。
香ばしい山の幸の数々。
フィトンチッド降りそそぐ楽園。
「ねえ、帰りたいって言い出すんじゃなかったの」
「ええ、ご家族が心配してるのでは…ってふってみたけど、『ドンマイドンマイ』って」
「何て言って、帰そうか」
今、蝉たちはなかったことにしたい。
らしくもない、就活で煮詰まっているせいかな。
ふう。
靴紐を結び直そうとしゃがんだら、地面にぽつぽつと穴。
蝉の穴か。
指を入れてみると、ひんやりしている。
次の瞬間、べらぼうな力で向う側に引っ張り込まれた。
声も出せず、風圧に耐えていると
すぽん!
そこは茂った木の枝の上だった。
「いらっしゃい」「いらっしゃい」
無数の蝉が僕を取り巻いている。奥から、紫に透ける翅を震わせ、可憐な女性が現れた。
「助けてくださってありがとう。あちらで私たちの宴にお着きください」
涼やかな調べを奏で、舞い踊る蝉。
香ばしい山の幸の数々。
フィトンチッド降りそそぐ楽園。
「ねえ、帰りたいって言い出すんじゃなかったの」
「ええ、ご家族が心配してるのでは…ってふってみたけど、『ドンマイドンマイ』って」
「何て言って、帰そうか」
今、蝉たちはなかったことにしたい。
その他
公開:19/09/07 16:15
スク―
忘れたいセミ
ssの庭に迷い込んだこぶみかん。数々のお話の面白さに魅せられ、通い始めた。
気が付いたら、庭の片隅に挿し穂されていた。
いつか実を結ぶまでじっくり育つといいね。
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