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 自転車のハンドルが真っすぐのまま固定されている。荷台に結びつけられた二本のロープの後方には、足を括られて、一頭の鹿がいる。自転車を走らせると、グラウンドにトンボをかけるような感じで、道路に鹿を引きずることになる。
 片側二車線の中央分離帯のある国道の通行規制は早朝の2時間のみだ。街路樹の剪定を行う係、アスファルトの補修をする係、路面に文字を書く係、全てを水で洗う係。それぞれがプロとして作業を終わらせ、その総仕上げが僕の作業なのだった。
 鹿の毛を傷つけないよう、そっと荷台に横たえて、僕は真新しい国道のスタート地点まで、自転車を走らせる。ハンドルが固定されているので、車線を外れそうになる度に自転車を降り、荷台の鹿を肩に担いで針路を調整する。東の空が仄かに白み始めてくる。
 作業開始。僕は、ハンドル中央にある測量器で入念に前後のタイヤ位置を調整し、荷台から路上に鹿を下すと、慎重に走り出した。
その他
公開:19/09/09 09:27
更新:19/09/09 14:17

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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