カタクチイワシチャリン

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「さあさ、飲まんかぁー!」
船上で酒を振る舞う煮売船の声。青く光る片口をこちらの舟に見せる。
「こっち来いやー!それが無きゃ、海は渡れねぇ」
チャリーン
銭を煮売船に投げ込む。
「毎度!今日の片口は極上もんだ!」
青い片口に酒を注ぎ櫂の上にのせ、船頭に渡す。受け取った船頭は注がれた酒を一口飲む。そして他の者たちに回す。船頭に片口が戻ると、残った酒を船首にかけながら呟く。
「立派な鱗がついている。頼もしい。この舟を宜しゅうに」
片口を舟と並行に海に浮かべた。最初はプカプカと浮かび、波が押し寄せ椀が海水で満ちると、海底に静かに落ちる。片口の鱗を輝かせ、閃光の流線を描きながら。
やがて舟を突き上げる波。
それは大きな波ではなく鰯の群れが舟を押し上げたのだ。
カタクチイワシチャリンだ。
群れは舟を導く。
鰯の鱗の煌めきが波の合間を縫う。その上を渡る舟は水平線を織りなす杼のように海原を渡る。
ファンタジー
公開:19/09/08 13:10
更新:19/09/08 13:44
ガーデン投稿1周年 初投稿作品のタイトルで 煮売船…廻船に飲食物を売る舟 片口…くちばし状の形をした椀 杼…織り機のシャトル

さささ ゆゆ( 神奈川 )

最近生業が忙しく、庭の手入れが疎かな庭師の庭でございます。

「これはいかんっ!!」と突然来ては草刈りをガツガツとし、バンバン種を撒きます。

なので庭は、愉快も怖いも不思議もごちゃごちゃ。

でもね、よく読むと同じ花だってわかりますよ。


Twitter:さささ ゆゆ@sa3_yu2





 

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