エアースプレー

ヘアースプレーならぬ「エアースプレー」が発売された。
炭素繊維でできた安全保護具を装着し、エアースプレーを全身に吹き付けると、体重に関係なく三〇分ほど空気より軽くなり、地面から浮かび上がる。
エアースプレーは瞬く間に大ヒット商品となった。ぷかぷかと浮かぶ人たちで空は溢れ返り、そのような人たちを「浮雲族」と呼ぶ社会現象まで起こった。
ところが、よそ見や空寝している人とぶつかったり、鳥やドローン、空飛ぶ車と衝突する交通事故など、地上と似たトラブルが空でも頻発するようになった。
政府は、航空法を改正して浮雲族も対象に加え、空プロムナードや浮雲族天国、空用の移動式信号機を設けたり、空中警邏隊を組織して交通整理に着手した。その結果、空のトラブルは激減した。
ただ、これらの規制に、空での自由を求めていた浮雲族が窮屈を感じるようになり、もともと飽きっぽい人間の性格も手伝って、今や空に閑古鳥が鳴いている。