夏のバス停

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 今日、大きく左に曲がるカーブの内側にバス停を立てた。そこは畑の中の、ほどよく何もない風景の只中で、空も大地も、とにかく横へ横へと広がっているので、何か縦のラインが必要なのではないか、と思ったからだ。
 停留所の名前は「追ヶ浜」にした。理由は、畑からモコモコと聳える入道雲を見ていて、このカーブの先には渚があってほしいと思ったから。
 バスの時刻表は隙間だらけだ。ラジオ体操に間に合う時間が始発で、次は日没の時間。最終は花火大会が終わる時間にした。
 そして翌日から、僕は大きく左に曲がるカーブの内側のバス停に自転車を止め、誰も乗っていない始発のバスで追ヶ浜へ出かけるのが日課になった。遠浅の小さな入り江に、静かな波が寄せては返すその砂浜でラジオ体操をし、海の家で休憩をしながら日没まで泳いで、バスで帰ってくるのだ。花火大会のある日には、最終バスまで海で過ごした。
 今、僕はバスの運転手をしている。
ファンタジー
公開:19/09/06 16:23

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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