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駐車場で車を切り返す途中、近くの藪を、豆粒大の緑がすいと上り、葉影に隠れた。
何だろうと気に掛かって車を降りる。ハゼの木の若枝に、霞網をごく細くした、浅緑の糸が円形迷路を構築し、夕方の光はハンモックを愉しむ様に寝そべっていた。
どこか恥じらいの足取りで糸を伝った織り手は、虫嫌いの私の目にも、見惚れる程に美しかった。べっ甲の虎斑を散らす肢体。豊満な腹部の、もぎたての白葡萄と、インペリアルグリーンの翡翠のグラデーション。私は夢中で眺めた。
戸惑う風に、誘う風に、彼女は迷路の縁で肢を組む。私は彼女の翠に触れたくなり、小首を傾げる彼女へ指を近付けた。
からかう仕草で、彼女がついと糸を手繰る。
腕を躱された私は、足をつまずかせて粘糸の迷路に倒れ込んだ。たわんだ糸がハゼの枝ごと解けて絡まる。木の葉と見えたものが、全て彼女の網だったと気付いた時、私は浅緑の檻にいた。
ぎちぎち。ぎち。彼女の顎が鳴った。
何だろうと気に掛かって車を降りる。ハゼの木の若枝に、霞網をごく細くした、浅緑の糸が円形迷路を構築し、夕方の光はハンモックを愉しむ様に寝そべっていた。
どこか恥じらいの足取りで糸を伝った織り手は、虫嫌いの私の目にも、見惚れる程に美しかった。べっ甲の虎斑を散らす肢体。豊満な腹部の、もぎたての白葡萄と、インペリアルグリーンの翡翠のグラデーション。私は夢中で眺めた。
戸惑う風に、誘う風に、彼女は迷路の縁で肢を組む。私は彼女の翠に触れたくなり、小首を傾げる彼女へ指を近付けた。
からかう仕草で、彼女がついと糸を手繰る。
腕を躱された私は、足をつまずかせて粘糸の迷路に倒れ込んだ。たわんだ糸がハゼの枝ごと解けて絡まる。木の葉と見えたものが、全て彼女の網だったと気付いた時、私は浅緑の檻にいた。
ぎちぎち。ぎち。彼女の顎が鳴った。
ファンタジー
公開:19/09/01 23:42
着想:ギリシャ神話 アラクネ
この蜘蛛は
ワキグロサツマノミダマシです。
嫌いな方ごめんなさい(>_<)
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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