彼女がさがしたもの

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「なましらす!」
彼女は失くしものを探すとき、大きな声でそう言った。
確かにその言葉のあとに失くしものが見つかるのを僕は何度も見たけれど、それが「なましらす」のおかげだったのかはわからない。
おまじないなのか聞いても、
「そんな単純なものじゃない」
とつれなかった。
はじめての夜にも、彼女はふとんの中で「なましらす」を叫んだ。彼女の下着はシーツの中で見つかった。
家の中ならそれも笑い話だけれど、電車の中や美術館では大変だった。スクランブル交差点で叫んだときなどは、映画のワンシーンみたいで、僕は逃げ出したい気持ちだった。あの頃の僕は、露骨に困った顔を彼女に見せてはいけないと思っていた。
やがて僕たちの恋は終わった。
20年が経ち、知人の葬式で僕は彼女と再会した。隣には素敵な男性の姿。
先に会場を出た僕は、懐かしい彼女の声に振り返った。
「かまあげしらす!」
流れた歳月を僕はしばらく考えた。
公開:19/09/01 12:12
更新:19/09/01 14:32

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