とんとん

6
9

夏が終わる、午後。

「とんとん。」
自宅の池の前で、じいちゃんの呼ぶ声がする。

「とんとん、とんとん。」

すーっと滑るように飛んできた青いトンボが、池にぴちょんと波紋を作る。

「友達。」じいちゃんはくしゃっと笑った。

「15cmくらいの、大きなカマキリがいる。たまに姿を見せてくれるけど、今日は見てないなあ。」

「耕運機を引いてたら鳥が遠くから見ていて、呼ぶと出てきた虫を食べに駆けてきたよ。」

「メダカは増えすぎちゃってねえ、だけど、30年からここにいる鯉が守ってくれてる。」

じいちゃんの回りには、たくさんの友達がいる。

そういう話を、ただ頷いて聞いた。

「とんとん。」
僕が呼ぶと逃げる。すーっと来て、旋回して行く。

トンボを目でついと追いかけて、その先にはじいちゃんがいて。

指を回す、その手は90年、畑仕事をしてきた手。

静かな、夏が終わる日の午後。
公開:19/09/03 14:12

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容