身代わり

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 彼には小さなころから身代わりになってくれる不思議な存在がいた。そいつはいつも彼と同じ姿かたちをしていたので、誰も身代わりだとは気づかない。
 例えば、彼が苦手なセロリが食べられなくて困っていると、身代わりがどこからともなくやってきてセロリを食べてくれる。漢字テストに苦戦していると、身代わりが答案を埋めてくれる。もちろん、百点だ。彼女への告白も身代わりがしてくれて、見事彼は彼女と付き合うことが出来た。
 そんな幸せの絶頂にある夜のことだった。
 ひき逃げにあった。
 身代わりが車に轢かれる。死体はなかった。血痕も残らない。ただ、身代わりは消え、二度と現れなかった。
 その後、彼は彼女と結婚し、子宝にめぐまれ、孫もひ孫も生まれた。彼女に先立たれ、娘も、息子も、さらに玄孫にまで先立たれた。
 身代りは、彼の死をその身に受けて死んでしまった。もう、彼に死を与えることの出来るものはいない。
ファンタジー
公開:19/08/30 23:13

海月漂( にほん )

思いつきを文章にするのが好きです。
怪奇からユーモアまで節操無く書いていきたいです。
少しでも楽しんでいただけますように。

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