家族

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父がソレを連れ帰ったのは、私がまだ小学生の頃だ。
ソレはちょうどランドセルぐらいの黒い塊で、時々肉が腐ったような酷い臭いを発した。
「沙奈恵、フフッくすぐったいよ」父が沙奈恵と呼び可愛がるソレが、媚びるように頭であろう部分を父の足に擦り付ける。幼い私には、なぜ父が母の名でソレを呼ぶのか、なぜこの酷い臭いが気にならないのかもわからず、その異様な光景をただ見ていることしかできなかった。
父がそれに話しかけるたび鼻を突く臭いは増す。もう限界だった。
置きっぱなしの父の携帯に手を伸ばし、かけ慣れた母の番号を押す。ちょうどソレがくる数日前から、母は旅行鞄を手に振り向きもせず家を出ていったのだ。
ルルルルル ルルル

リリリリリ
その微かな音が部屋で響いていると気づいたのはすぐだった。母の携帯だ。
(置いてったんだ…)
失望と少しの喪失感。
呆然と座り込む私の後ろでソレが小さくリリリリリと鳴いている。
ホラー
公開:19/08/30 21:10

mono

思いつくまま、気の向くまま。
自分の頭の中から文字がこぼれ落ちてしまわないように、キーボードを叩いて整理整頓するのです。

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