夜のカーテン

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月明かりのない夜だった。
残業で疲れた身体を引きずるようにして歩いている。
自宅まであと少し。県道から東へ曲がり、あとはこの一本道を進むのみだ。
200mほどの直線には、等間隔でオレンジ色の光を放つ街灯が立っている。
明るい光は、まるで夜を裁断しているかのようだ。
そんなことを考えていたからだろうか、街灯に照らされた灯りの外へ足を踏み出したとき、奇妙な感覚を覚えた。
まるで薄いシルクに包まれているような、優しく冷たい何かがそこにあるような……。

ああ、これは夜だ。夜のカーテンだ。

直感がそう言っていた。
おれは初めて夜に触れた。そのことが嬉しくて、手で優しく撫でたり、体を包ませたりして、感触を楽しんだ。
街灯の下は何だか物足りなくて早足で駆け抜けては、次のカーテンに飛び込む。
最後のカーテンをくぐり、後ろをふり返る。
おれが通ったことを示すように、夜が大きくゆらめいていた。
その他
公開:19/08/30 20:43

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