赤色のシクラメン

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「早く大人になってさ、会社起業して、嫁さんと結婚して、子供は三人くらいがいいかな、あとそれから…。」
 制服替わりの喪服を身にまといながら、あいつが語っていた夢を思い出した。今を思えばなんともばかげた話だが、あいつは頭がよかったしそれなりの現実味があった。あいつのあのバカっぷりなら本当に夢を叶えられたかもしれない。だけど結局あいつは、包帯にまかれて棺桶の中にいた。
即死だったらしい。高齢者がアクセルとブレーキを踏み間違えてそれっきり。医者の話によると車が近づいてきていることもしらずに、痛みも感じずにこと切れただろうとのことだ。
 正直悲しくない。むしろこれでよかったんだじゃないかと俺は思う。
俺は知っている。
社会人が仕事に意味を見出せなくて苦しんでいることを。社会に希望を持った人間が潰えていてしまっていることを。
俺は赤色のシクラメンを棺桶に入れて、終わることを望んだ。
青春
公開:19/09/01 01:00

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