病の名は

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 しばし沈黙を守っていた少女は、俯いたままぽつりぽつりと話し出した。
「どうしようもなく胸が痛くなっちゃうんです。そして、ドキドキってものすごく鼓動が早くなって、苦しくなって、どうしようもなくなっちゃう」
 そして、膝の上で二つの拳をキュッと握り締める。かくかくと小刻みに膝は震え続け、次第に震えは激しくなっていく。
 ぱくぱくと酸欠の金魚のように口を開き、彼女は大きく深く息を吸い込んだ。
 彼女の話を辛抱強く聞く彼は、彼女を急かすようなことはしない。
「顔も赤くなって、熱が出たみたいに身体全体がふわふわして、変なんです」
「どのような時にそんな症状が出るのですか?」
 白衣に身を包んだ美貌の医師が優しく問う。
「……先生の、前に出ると」
 思い切って彼女は熱い思いを吐露し、潤んだ瞳で医師を見つめた。医師の薄赤い唇がゆっくり開く。
「なるほど、医者恐怖症ですね」
その他
公開:19/08/31 22:58

海月漂( にほん )

思いつきを文章にするのが好きです。
怪奇からユーモアまで節操無く書いていきたいです。
少しでも楽しんでいただけますように。

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