シュワシュワゼミ

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真夏の公園は、セミの声が響いていた。

昆虫採集教室に集まった子供たちは、それぞれ想い想いに虫を捕まえて、昆虫学専攻の僕に種の同定を求めてくる。ミンミンゼミやカナカナゼミ、ニイニイゼミと答えるだけだから、とても楽なバイトだ。
「はかせ、これなあに?」
ある少女もまた、同じようにセミを持ってきた。
「――鳴かないでずっと前あしをうごかしてるけど、メスかな?」
「ああ」それは、とても珍しいセミだった。「これは、シュワシュワゼミのオス。2011年に発見されたばかりの新種で、こいつはオスでも『しゅわしゅわ』とは鳴かない。その代わりに前脚を器用に使って、メスにアピールするんだ」
「へぇ~」
僕は調子に乗っていた。
「鳴かないから、今世紀まで発見が遅れたんだ」
「ちがうよ」
あどけない少女の瞳が、まっすぐに僕を見ている。
「――だれも聞こうとしなかったんだよ」

真夏の公園に、子供たちの声が響く。
その他
公開:19/08/31 20:27
更新:19/09/23 15:26
注:11年に障害者基本法が 改正されるまで、手話を『言語』 として認める法的な裏付けは ありませんでした。 月の音色

畑のお肉屋

月の音色リスナー
エブリスタでも同じ名前で、ショートショートよりかはちょっと長めのを書いてます → https://estar.jp/users/474388634

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