ないものねだりの恋

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恋というものがわからなかった。
愛はわかる。友や家族を愛しいと思う気持ちは人一倍強い方だ。それでも恋心というものが20歳をこえた今でもひどく曖昧だった。

「愛してるよ」
隣で紡がれた彼の言葉を心で反芻する。20歳を過ぎて、初めて出来た恋人だが、告白されたときですら"胸の高鳴り"なんてものはなかった。
思うに私がただ"恋"というものに幻想を見すぎているのだろう。少しの失望感とともに断りの返事をしようとする私に、彼はその耳を夕陽色に染めあげてボソボソとつぶやいた。
「好きがわからないっていうなら、付き合ってみたらわかるかも…なんて…」
気弱な彼のその一言に引き止められた私は、こうして恋を知らないまま恋人を手に入れたのだ。

「私も愛してる」
薄っぺらい言葉だ。彼に返す言葉に熱はない。嫌悪はないが、恋と呼べるものもないのだ。
(酷い女)
終わらせる言葉を持っていないふりして今日も心に熱を探す。
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公開:19/08/29 13:34

mono

思いつくまま、気の向くまま。
自分の頭の中から文字がこぼれ落ちてしまわないように、キーボードを叩いて整理整頓するのです。

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