科学幻想妖異記-ⅩⅤ．リビングデッド

医療用メスだ。俺が握って深空を刺したのは。
「自分も瀕死なのに、テロリストの心配？人として欠陥品ね、貴方」
胸に接した拳に、鼓動は伝わらない。温度はまだ感じる。
「テロリストは君だろう、悪魔め」
深空を操って事件を起こさせ、研究所を舞台に、生物兵器の実証実験をした。『上』と彼女にとって予定の行程だった。
「人類救済の為よ。必要な犠牲だわ」
傲然と白衣を翻す麗華。眠った時と外見は同じ。
冷凍保存は、凍結による細胞損傷を防ぐ為、体液を不凍液に交換しなければならず、解凍しても機能回復は難しい。彼女は不凍液でなく、新型万能細胞を触媒に使う事で、解凍後の完全復旧を試した。去年の実験は、現時点をもって成功が確認された。
「俺のフェンリルやウェアウルフは？人間を破滅させる殺人ウィルスだろう！」
「制御出来れば超能力者になれる。彼みたいに」
停止した心臓が、再動した。
「実験体は、貴方一人じゃないのよ」