きぬごしの妻

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「どっちでもいいから」
私のその言葉が引き金になった。
妻は激しく怒り、豆腐から出てこなくなった。
私は夏の参議院選挙に立候補して、落選した。
選挙中は妻にも地元と演説先を行き来してもらっていた。
妻には双子の妹がいて、これは禁じ手だけれど、妹にも、妻を名乗って手伝ってもらうことがあった。
選挙戦の終盤、事前予想で私は落選とされていた。
私は焦った。
あるとき、妻を伴うはずの演説会に彼女が現れず、私は、
「どっちでもいいから早く来い!」
と、電話で怒った。
演説会には妻の妹が来てくれてその場はしのいだけれど、選挙は惨敗。妻は豆腐の中に入ったままで、敗北会見も、妻の妹に同席を頼んだ。
真夏の全国行脚で疲れていた。でもそれは言い訳にはならない。妻だって同じなのだから。
私は妻の豆腐が腐らぬように冷蔵庫に入れた。そして妻が風邪をひかぬように豆腐に毛布をかけた。
もうどうしていいのかわからない。
公開:19/08/28 15:12

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