停電の後で

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「うちは、二日。あなたのところは?」
「一日半。でも片付けはこれからよ」
 台風通過から二日。庭を掃いていた向かいの奥様に声をかけられ、仕事帰りにしばしの立ち話。
「冷蔵庫がねぇ…… 扉を開けるのに勇気がいるかもよ」
「大丈夫。掃除は夫に任せてるんだ、私」
 夫の方が時間に融通がきくので、そういう家事は夫に任せることが多いのだ。
「いいわねぇ。猛暑日だったから、卵がみんな蛹になっちゃって」
「え?」
 彼女は時々、おかしなことを言うのだ。
「内側に厚く繭をはって、中でグリグリ動くの。もう、気持ち悪いったらないわ」
「卵、よね?」
「そうよ。あ、見たことない? まだゴミ袋に入ってるから、見せてあげましょうか?」
「いえ、結構。じゃ、さよなら」

「ただいま」
「おかえり」
 すでに帰宅していた夫は、台所でゴミ袋を縛っていた。
「停電大変だったね。卵がみんな駄目になってたから、処分しといたよ」
その他
公開:19/08/28 14:03

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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