靴が飛んでる

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ただ見ているだけで良かった。

青空と入道雲を背景に、たくさんの靴。ハイヒール、サンダル、下駄、長靴、とにかく種類もいろいろ。

見てるだけで良かったのに。

「苦痛だ…」呟く私に「洒落かよ」と私を乗せたスニーカーが突っ込む。何でも靴が見える私は、舵取りの役目をしなきゃいけないらしく、無理矢理ここに乗せられたのだ。最早誘拐。乗り心地悪いし。

でも、靴を率いてどこに行くべきなのか自然と分かった。

手綱を引くように靴紐を引き、大空を駆け、海越え山を越え、積乱雲の中で雷を避けて進む。渓谷で怪しい仙人から知恵と武器を授かり、悪い鬼と戦い靴紐で縛り上げ、とうとう私はレベルアップ、羽の映えた靴を履き、百の靴を従えて空を駆けた。

「着いた」

花畑広がる地には、靴を待つたくさんの魂。触れあった2つは淡く光り合わさり消える。

それを見届けた私は寝転ぶ。履いていた靴が光った。やっと終わりを確信した。
公開:19/08/30 13:48

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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