ウィンドウショッピング

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寂れた港町の暗い路地を抜けた先にその店はあった。
店名はなく、小さな窓と「あらゆる窓を取り揃えております!」という紙が貼られた古びた扉があるだけだ。
窓なんて買うつもりはない。
おれはその店に入ることはしなかった。

おれはその奇妙な店のことはすっかり忘れていたが、それからというもの無性に窓というものが気になってしかたなくなった。
通勤のために乗る電車の窓、高層ビルの壁に几帳面に並ぶ窓、古い木造住宅の古びた窓……。
おれは飽きることなく、あらゆる窓を眺め歩いたが、ふとあの港町の店を思い出した。

「それが今から10年前のことだ」
店主はそう言って古びた扉の側にある小さな窓を見やった。
「では、あなたは窓を“ウィンドウショッピング”して、この店の主人に?」
上手いことを言うもんだ。そう言って窓の店の主人は笑った。
「だが今は売る側だからな。ウィンドウショッピングは勘弁してくれよ」
その他
公開:19/08/29 17:13

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