科学幻想妖異記-ⅩⅥ.ケルベロス

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「メスを抜いて。癒着するわ」
理性が拒否しても身体は従う。深空の傷は治癒を始めていた。
「心停止を経ないと機能しないの。その代わり、あらゆる損傷も老化も、移植時の状態に回復する。冥界の番犬、ケルベロスと名付けましょうか」
麗華が研究していた新型万能細胞。詳細は知らされなかった。
「人間が最も克服したい病気。常に抱える危険因子。狂った無限増殖。でも、飼い慣らして自己修復に使えれば、不老不死にもなれる。いいえ、なったのよ」
可移植性性器腫瘍(CTVT)。犬と共存する感染・寄生がん。化学療法に代わる適応療法の研究対象。人間の臨床例はまだない。
「深空と寝て感染させたのか。何も報せずに?」
「機能が無くて、遺伝子の同じ貴方じゃ、実験にならないもの」
振るったメスが止まる。力が抜けて這いつくばった。
「脳神経と筋肉の麻痺。末期に入っても、服従反射は壊せない」
歌う調子の声が、終末のラッパに聞こえた。
ファンタジー
公開:19/08/29 13:58

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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