科学幻想妖異記-Ⅱ．セイレイン

ラボを離れ、閉じる隔壁に追われながら廊下を走る。近くで爆発でも起きたんだろう、スプリンクラーが作動し、頭からずぶ濡れにされる。
濡れる程度で済めば御の字。二種のティンカーが可愛く感じる化け物が、今からうようよ登場する。自分で造って化け物もないものだが、最初から想定して造る奴なんていない。
「……ど。志度！」
廊下から逆走する声。
「返事しろ、志度！」
「深空！？お前……」
半分応答し、白衣で鼻と口を覆う。
乱響雨精（セイレイン）。水に溶ける細菌。感染経路は接触と経口。脳神経――特に内耳に過敏反応を起こさせる。聞こえない距離の音を拾い、寸断し、平衡感覚も狂わせる。スプリンクラーの水に混じってたか。

――気持ち悪くて、耳鳴りがうるさくて、立ってられない。
後ろに風圧――隔壁だ。走らないと潰され、
「志度！！」
脇から蹴られてスライディング。壁に激突して呻いたところで、区画最後の隔壁が閉じた。