干す女

　「やっぱり降ってきた。でもさ、部屋干しって憂鬱じゃない？」
　和美が頬杖をついて言った。
　和美は、家事の合間にうちへ来ては愚痴をこぼしていくお隣さんだ。
「うちは物干場だから」
「え？　庭？　じゃなくて？　どこ？」
　私は、和美を洗濯機の前に案内し、蓋を開けた。
「奥の扉の向こうよ」
　洗濯槽の奥の扉の向こうには、広々とした晴天の丘陵地帯があり、無数の洗濯物が翻っている。
「洗濯機の容量に応じて物干場が割り当てられて――」
「里美」
　と、和美が私の話を遮った。
「私、帰らない。旦那に黙っててくれる？」
　和美は真剣だった。私は頷いて、物干場を後にした。
　以来、私は毎日和美に食料などを届けている。最近では顔馴染みも増えたそうで、毎日、爽快で幸せだという。
　お隣の旦那さんには、
「お洗濯とかご自身でなさるようになれば、和美さんにまたお会いになれるかもしれませんよ」
　と答えておいた。