アルピアニスト

10
43

アルピニストでピアニストの彼女。
後輩に予約してもらい、やっと取材までこぎつけた。
取材は、四百字山の頂上を目指しながら。
半透明のブルゾン姿の彼女は、五七五ヶ岳やエブリストへと登稿を重ねる。
下界では、その繊細な指先で奏でる物語で、人々の心を洗う。
『うわぁぁぁん』と泣くクライマーでも有名だが、彼女は左利き。
『さわぁぁぁん』と要所を抑え、ナイスピッチな演奏家。
彼女の譜面を踏めん人は、隠れファンとも言われるほどだ。

頂上に着き、夕日を眺めた。
「夕日もいいものですね」
『山に登ると、自分と向き合うことになります。また昇るために、沈むんですよね』
「今日は、ありがとうございました。では、そろそろ…」
すると、彼女は上を指さした。
頂上だと思っていた場所は、ただの通過点に変わっていた。
『山は生き物なんです。登ろうと思えば、まだ先はあります』
まだ見ぬ天辺を目指し、彼女の指は歩き出した。
その他
公開:19/08/27 14:56
HAPPY BIRTHDAY 予約の後輩くん 半透明のユニゾン ゆたしたん

そるとばたあ( 神奈川 )

★そるとばたあの400字SSは、ことば遊びと文章のリズムにこだわり、音を体感できる物語がコンセプトです!

★第19回坊っちゃん文学賞大賞『ジャイアントキリン群』

★2025年12月、2冊同時刊行の電子書籍
『3分間のまどろみ カプセルストーリー』(Gakken)に『恐竜バーガー』寄稿。

・カプセルストーリー(恐竜バーガー、『菊池

の選択』、六文字の返信ほか)
https://amzn.asia/d/8qmIuR7

・カプセルストーリー(特殊外来種ハンター、カンガルー・ノート、露の楽譜ほか) 
https://amzn.asia/d/iW14MdM

ショートショートの可能性と豊かさが詰まったアンソロジーですのでぜひ!
 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容