野菊の恋

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「お帰り、りゅうちゃん!」
ドアの向こう、懐かしい顔が店番してた。今朝帰るって聞いて、学校終わりに来た。新しいワンピ似合ってるかな?
「大人っぽくなったね、ゆらりちゃん。見違えた」
りゅうちゃんの方が変わった。遠くの大学に行って、時々知らない人みたい。でも、目は昔から優しい。
「読書感想文のね、本貸してほしいの」
「小学生には難しくないか?」
「大丈夫。勉強してるもん」
作戦成功!返しに来る時、また会える。
お父さんのライバルだよって、お姉ちゃん達は言う。でも、りゅうちゃんのお父さんとうちのお父さん、元々仕事仲間だし、関係ないと思う。
「あ、『野菊の墓』。図書室にあった」
優しい目が、少し曇った。
「いいよ。ゆらりちゃんにあげる」
何となく中身が想像出来た。

帰り道、文庫本一冊がすごく重かった。
お父さんが、野菊の花を見せてくれた。はかなくて寂しげで、何となく、りゅうちゃんの目に似てた。
その他
公開:19/08/24 12:31
三姉妹の花詞(はなし)③ 野菊

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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