早乙女が咲いたら

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「ひらり、ちょっと良いか?」
良くない。しぶしぶドアを開ける。お父さんてば、たまに無神経だよね。
「寝てたんだけど」
我ながら声が冷たい。……失敗しちゃった。よりによって、お母さん留守の時に。
「珍しい物が入った。こっち向いて」
珍しい物って、どうせお花でしょ?もう職業病だよね。体調最悪だから、正直近付きたくないのに。
「サオトメカズラだ」
「うわっ、ヘクソカズラ!」
図鑑に載ってる雑草。長い蔓にふわふわ白い花。確か名前の通り、すごい悪臭がするはず。ついのけぞった。
「触らなきゃ臭わない。よく見て」
疑い半分。小さいくせに目立つ花。中心の暗い赤に、今朝のシーツを思い出す。
「……綺麗」
じっと見つめて、最終的に思った。
「精一杯咲いてる、命の色だろう?花も人も同じ。いつか次に繋ぐ貴い色だ。だから、嫌ったり、引け目を感じたりしないでほしい」
言う事がクサいよお父さん……。
でも、ありがとう。
その他
公開:19/08/23 22:49
三姉妹の花詞(はなし)① 早乙女蔓(さおとめかずら) 別名:ヘクソカズラ

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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