秋津の原

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 猛暑日の予報の中、ペットボトルの水と塩飴と90リットルの袋20枚を携えて、昨日刈り終えた、背丈ほどの青芒が折り重なっている敷地に入った。今日はそれを袋に詰めて運ばねばならないのだ。
 一束掴んでは、折り曲げるようにして袋へ収める。だが、芒は複雑に絡み合っているし、いくら注意していても茎は袋を突き破るしで、作業は思うように捗らなかった。
 作業の途中で腰を伸ばすたびに、赤蜻蛉が私の周りをグルグルと回った。頭が大きい割りに胴が短いその赤蜻蛉は、私を見張っているかのようだった。
 5袋目で水が尽き、12袋目で私は仰向けに倒れた。赤蜻蛉が顔のすぐ上をキチキチ。キチキチ。と巡っている。
「何の音だ?」
 私は霞み始めた目で、赤蜻蛉を追った。
 キチキチ。キチキチ。
 それは、赤蜻蛉が顎が動かす時に出ている音だった。
 いつしか、頬の上を歩き回り始めた蜻蛉の目に、青芒の上に倒れた私の姿が映っていた。
その他
公開:19/08/25 16:11
更新:19/08/25 18:02

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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