会える

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「またそれ持ってくの?」
「…別にいいだろ!」

妹の指摘にぶっきらぼうに答える。手には黄色い大きな浮き袋。

父親の実家は海辺の町。夏に帰省した時は、必ず皆で海水浴に繰り出す。

五年前、まだ小学生だった僕は、この浮き袋に身を預けて水面を漂っていた。すると、同い年位の女の子がこっちを見ている。僕を見つけて、彼女は微笑んだーー。

その時、急に大きな波が来て、僕は投げ出された。慌てて顔を上げたけど、もう女の子はいなかった。

バカみたいだけど、それから毎年この浮き袋で漂っている。また会えるかも、と…。

いつの間にか結構沖まで来てしまった。戻らなきゃ…そう思っていると、大きな波が僕を飲み込んだ。投げ出された僕は、もがきながらふと水中で目を開く。

…いた、あの女の子だ。微笑みながら、僕に言う。

「今度は一緒に、遊べそうだね」

女の子は僕の手を握ると、人間とは思えない力で引きずり込んだ。
ホラー
公開:19/08/25 12:35
更新:19/08/25 21:23
スクー あの子に会える浮き袋

makihide00( 鳥取→東京→福岡 )

30代後半になりTwitterを開設し、ふとしたきっかけで54字の物語を書き始め、このたびこちらにもお邪魔させて頂きました。

長い話は不得手です。400字で他愛もない小噺を時々書いていければなぁと思っております。よろしくお願いします。

Twitterのほうでは54字の物語を毎日アップしております。もろもろのくだらない呟きとともに…。
https://twitter.com/makihide00

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