オレオレ蛹

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元気にしてるのだろうか。
大学進学と同時に東京に行った長男。卒業後も帰ってくる様子もなければ、就職する様子もなく、たまの電話では「オレオレ、お金を送って」と詐欺のようなことを言うばかり。
「あの子、この夏も帰らないのかしらねぇ」
「心配なら、様子見に行けば?」
次男に言われ、久しぶりに東京の長男の部屋を訪ねた。インターホンを鳴らすが反応がない。合鍵があって良かった。
鍵を開け部屋に入る。長男はいない?
「ヒッ!」
人間大の昆虫の蛹のようなものが布団に横たわっていた。
『あ、母ちゃん!オレオレ!』
蛹が喋った?
「まさか…」
『そ!オレオレ!今蛹やってんだ。変態の真っ最中だぜ!立派な社会人になって羽ばたくから待っててー』
私は涙した。

朝、起きるとぐしゃぐしゃに脱ぎ捨てられた殻があった。布団をめくると、丸まってスマホゲームをしてる長男がいる。

『あ、母ちゃん。羽化失敗!お金置いてってー』
その他
公開:19/08/25 00:01
更新:21/01/19 19:35

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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