あの夏のサイレン

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おう、3番来たぞ。言われて通された病室のベッドに、キャプテンはいた。目は虚ろ。こけた頬に高校時代の面影はない。

突然の連絡だった。最期に盛り上げてほしい。嘘でもいい。何とか聞き取れるうわ言は、あの夏のことばかりだから。

キャプテンは守りの要だった。守備の時はマスクを被り、ひとり俺たちの方を向いて、手を上げてからゆっくり座った。その佇まいに俺たちは、どんなピンチでも落ち着いていられたんだ。

野球ってさ、27個のアウトを取るゲームなんだよ。懐かしいキャプテンの口癖。そういや、こんな冗談も。サヨナラは嫌だね。アウトの数が足りねえよ。

「さあクリーンナップだ。キャプテン、どう攻める?」

ベットを囲む仲間が声をかける。病室のドアがノックされ、新たに入ってきたのは4番と守護神。さよなら…ふざけんなよ!アウト取り切るまで、試合は終わらせねえぞ。

キャプテンが右手を大きく振り上げて、笑った。
青春
公開:19/08/24 23:29

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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