魔法使いパパ

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今日も自称魔法使いのパパは、朝ごはんができるまでの数十分、ぼくのための魔法ショーを開く。
けれど十歳を過ぎたぼくは、パパの魔法が下手なマジックだってことをとっくに知っていた。それでもパパの魔法ショーに、毎朝ぼくは知らないふりで付き合う。
トランプを当てる魔法は、パパがじっと見ていたカードの下に。コインが移動する魔法は、振り上げてもぞりと動かすコップの中に。
どれも種はみえみえだけど、不思議と退屈じゃないこの時間がぼくは好きだった。
最後の魔法が終わると、できたての朝ごはんがいつの間にかテーブルいっぱいに並んでいた。
フレンチトーストにサラダ、ウィンナーにコンソメスープ。デザートのぶどう。
魔法ショーの間に用意されたごはんを、パパと二人向かい合って食べる。

「あ、牛乳忘れてたな」

呟いて、指をくるくると回すパパを眺めながら、ぼくはいつのまにか注がれていた牛乳をごくりと飲んだ。
その他
公開:19/08/24 21:58
ベリショーズ収録作品

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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