夏盛りの狂乱

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命を絶とうと決意したのは、ボーナスが人間ドックの5%引き券だったからじゃなかった。
まして目の前でやりがいが売り切れたからでも、遠隔操作で業務をブラック仕様にされたからでもない。

あれは、お盆商戦の売れ残りビールを闇営業で販売していた夏の日だった。初任給にサラダがついていた頃はよかったなんて、佐藤と呑気に語り合った帰り道。金魚にもクーラーがいるような暑い夜に、彼女は現れた。
最初はやかましくて嫌いだと思った。でも海水浴がお流れになった日、本当は彼女の美しさに惹かれているって教えてくれた台風が去った頃には、彼女はもうこの世にいなかった。
忘れようと思った。でもできなかった。
僕は職場のラミネート機で彼女への気持ちを閉じ込めて、次の夏に彼女の後を追うと決めた。
あれから1年。
腰には思い出の浮き袋。きっとこれで、あの子に会える。
彼女の脱け殻を握りしめると、近くで彼女の仲間がミンっと鳴いた。
その他
公開:19/08/21 20:13
スクー 全盛り

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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