君に会いに

26
21

あの夏、君は猛暑の球場でビール売りの宿題をいっぱいに抱えていて、僕は自分の人生に台風を起こしたい気持ちを抱えながらぼんやりと家庭教師をしてた。僕は君に恋をしたのに、無風のまま何の風も起こせなかったな。

卒業してブラック企業に入社した僕は、遠隔操作で働かされてる毎日だ。サラダ付きのショボい初任給、人間ドックに行ける程度のボーナス。目の前では売り切れたやりがいが、パックリと口を開けてるばかり。

大人になった僕は恋を忘れたいセミみたいだ。
君君君ミンミンミン。バカみたい。

ラジオから「あの子に会える浮き袋」が流れた。あの頃よく流れていた曲だ。当時なかったクーラーが僕の部屋をキンキンに冷やしてる。君とお祭りで釣った金魚の方がよっぽどクーラーだった。

秋が台風を連れてくる前に、君に会いに行けるかな。あの夏からずっとメンタルラミネートに包まれたままの恋心を、この夏に解放してやるんだ。
その他
公開:19/08/21 09:37
スクー 全盛り

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容