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山積みの文献の中で彼は焦っていた。丁寧な下調べが評価され、新進作家として売れ始めたのに新作が思い浮かばないのだ。

丸めた原稿用紙がガサガサと音をたてて中から虫が現れた。

「お困りの様ですね。私はあなたの頭の中に住まわせてもらっている本の虫です。よろしければお礼にどなたかの頭の中を覗いて来ましょうか。なあに、まだ文字になる前ですから盗作の心配などは無用です。」
虫が持ってくる構想は素晴らしい物ばかり。彼は“本の虫”と呼ばれているある大作家の後継とまで称されるようになった。

「おい、また頼むよ。」
しかし虫は返事をしなかった。
「あなたの頭の中にはもう食べる物が無くなりましたので他に移ることにしました。さようなら。」

まあいいさ。続編くらい簡単さ。

ところがいくら考えても何も思い浮かばないどころか、字さえも忘れてしまっていることに彼は気づいた。

あの虫は文字を餌にしていたらしい。
その他
公開:19/08/20 11:21
更新:19/08/20 12:24

文月そよ

のんびりゆるぅり書いてみたいと思います。

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