蚊帳の中

ぽんとワンタッチ蚊帳が開くなり、男は潜り込んで眠りに落ちた。

話し声が降ってきて、目覚めた。
「これ新しい虫？」
「そそ。どんな声かな」
虫だって？思わず、聞き返した男の声は人間の言葉ではなく、ガガガと奇怪に響いた。
「珍しい声じゃん」
「えー、きれいじゃないよ、この鳴き声」
ぐいと緑の棒が中に押し込まれた。
「胡瓜食べるといいな。前のはメロンしか食べなくて、手間だったよ」
ガガ、ガガガ。
ぴしゃっ。水を浴びせられ、全身びしょびしょに。
「裏のユウタくんに聞いてみようか」
「ユウタくんなら知ってるかもしれないね」
「ユウタくんはコレクターだから、もっときれいな声の虫と取り替えてくれるよ」
男は蚊帳から逃れようと、寝具の上でもがいては滑った。（マッテ、タスケテクレ）ガガガ、ガガガ。

「善は急げ」
蚊帳ごと男は持ち上がり、揺れながら、宙を進み始めた。
ガッガガ、ガガッガ、ガーガ、ッガガー