白百合の女

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 盆供を終え、一人、月下の家路を辿っておりますと、横合いの小路から、唸るような、喘ぐような声が聞こえましたので、私はその路地を入り、背の高い槇の垣に沿って、声の方へ歩いていきました。それは二階家の、こちら向きに開け放たれた窓から漏れていて、その窓の下の槇の垣からは、盛りを過ぎた白百合が無数に項垂れておりました。その生臭さと熱気とにあてられ、私は、ぼぅっと窓を見上げておりました。
 声が唐突に途絶えしばらくは静かでした。秋風が小路を通い、垂れ下がった白百合をぶらぶらと揺らしました。
 と、窓から人の手が見え、白百合の花が、私の方へ投げ落とされたのです。私は咄嗟に手を伸ばしました。
 ひちゃっ。と掌に落ちたそれは、重たく湿ったティッシュペーパーでした。「ひっ」と言って投げ捨てたそれは、槇の垣にひっかかると、萎えた白百合のようでした。
 私は喪服の襟を整え、「ほぅ」と嘆息して路地を出たのでした。
恋愛
公開:19/08/18 11:29
更新:19/08/18 12:05

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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