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震える手で、光る実に触れる。掌に収まる卵形で、産み立ての様に温かい。表面を撫でていると泣き声は止まった。
――俺の子だ。理屈でなく思った。
「咲いてくれ。……顔を見せて、声を」
念じても届かないかも知れない。朝に散った黒い花は、役目を終えていた。その事実に目を瞑り、逢いたくて逢いたくて、ただ逢いたくて捜した。花が毎年咲く様に、再び巡り逢えるなら――
『お許しを』
蔓が実を攫った。長い髪が夜気を孕み、白い腕に抱かれて赤ん坊が笑う。
『私は人とは生きられません』
二十年前と同じ顔で、彼女は微笑んだ。
「なら俺も花にしてくれ。烏瓜の雄花になって、お前と生きる」
無茶は承知で願った。どうしても離れたくなかった。
蔓が身体に巻き付く感触。まるで玉繭だ。二人は緑繭の中で端からほつれ、溶けて二輪の花になり、蕊を重ねて結ばれた。実って種が零れ、新しい俺達が芽吹き茂り、新月の闇に漆黒が絶え間なく咲いた。
――俺の子だ。理屈でなく思った。
「咲いてくれ。……顔を見せて、声を」
念じても届かないかも知れない。朝に散った黒い花は、役目を終えていた。その事実に目を瞑り、逢いたくて逢いたくて、ただ逢いたくて捜した。花が毎年咲く様に、再び巡り逢えるなら――
『お許しを』
蔓が実を攫った。長い髪が夜気を孕み、白い腕に抱かれて赤ん坊が笑う。
『私は人とは生きられません』
二十年前と同じ顔で、彼女は微笑んだ。
「なら俺も花にしてくれ。烏瓜の雄花になって、お前と生きる」
無茶は承知で願った。どうしても離れたくなかった。
蔓が身体に巻き付く感触。まるで玉繭だ。二人は緑繭の中で端からほつれ、溶けて二輪の花になり、蕊を重ねて結ばれた。実って種が零れ、新しい俺達が芽吹き茂り、新月の闇に漆黒が絶え間なく咲いた。
ファンタジー
公開:19/08/18 04:05
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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