信号待ち

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あれから何度目の夏になるのだろう。
毎日仔犬と散歩していたあのおじさんもずいぶん歳をとった。大型の愛犬に引っ張られるように歩いている。
赤いランドセルを背負って元気よく横断歩道を渡っていたあの子は今は洒落たファッションに身を包み、時折見えない誰かと話しながら歩いている。
どうやら“食べるスマホ”なるものが開発されたらしい。片時もスマホを手放せない人に重宝されているようだ。
それはもともと僕のアイデアだった。人間の感覚を最大限まで増幅させて特殊な電波に乗せ、脳内で会話ができるようにする…
あの日、そのプレゼンのために僕は急いでいた。そしてここで赤信号に引っかかった。
この信号はいつも運命の分かれ道だった。いつも一瞬の差で僕の運は変わっていた。

「時間よ止まれ!」
あの日、強く念じた通りに時間が止まった。
僕の時間だけが。
あれから何度目の夏になるのだろう。
目の前の信号はまだ変わらない。
その他
公開:19/08/18 03:20

文月そよ

のんびりゆるぅり書いてみたいと思います。

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