黒烏瓜(くろからすうり)其の三

0
6

漆黒の花の烏瓜。手掛かりを掴んだところで、すぐ見付かると高を括る気はなかった。
一夜の出会いから二十年近く。空き家は取り壊され、群れ咲いた烏瓜は絶え、俺は齢を食った。
同じ場所に二度咲くとも限らない。何度忍び込み夜を明かしても、烏瓜は全部白かったし、女は現れなかった。
新月と烏の声が重なる時――どれだけの確率だと言うのか。

相変わらず旅から旅を続け、烏瓜の群生を求め歩いた。新月の夜は耳を澄ませ、烏の声を探した。定職に就けず、親兄弟にも縁を切られた。うつつに帰れないと古老が予言した通り、俺は社会から逸脱した妄想狂だ。

また何年かの夏が過ぎ、烏瓜は色とりどりに実を結んだ。
今夜も新月。故郷の山道を行きながら、意味もなく耳を澄ませた。

――――アァ

「烏……?」
恐る恐る振り返る。
闇に沈んだ藪で、提灯の様に丸く光る。
――アァ――ン
烏の声じゃない。
紛れもなく、赤ん坊の泣き声だった。
ファンタジー
公開:19/08/18 02:23

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容