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あれは生意気盛りの若造だった頃。
酒に酔った帰り道、民家の垣に、白いレースがびっしり咲いたのに出くわした。
烏瓜。故郷の山にあった花だ。懐かしんで眺めるうち、一輪だけ、見事な漆黒を見付け、つい手が伸びた。
「お許しを」
花が喋ったかと思った。
窓から女が身を乗り出し、哀願する様に俺を見た。
「朝には萎む花です。そのままに」
瓜実顔を縁取って髪が傾れた。花へ零れ掛かる濡れ羽色は、黒い烏瓜の細かく裂けた花弁の様だった。
「なら、代わりに何をくれる?」
我ながら無茶だと思ったが、女は迷う眼をした。
気が動いて、夜明けまで女の処にいた。
割れた窓から差し込む光を浴び、異変を知る。
そこは荒れ果てた空き家で、朽ちた畳の上まで、緑の蔓に覆われていた。
蔓を掻き分けて垣へ到達すると、昨夜の烏瓜は、茶色く萎んでほたほた落ちていた。
黒い花の亡骸は、朝の中で鮮明に黒く、花後の子房は心なしか膨れて見えた。
酒に酔った帰り道、民家の垣に、白いレースがびっしり咲いたのに出くわした。
烏瓜。故郷の山にあった花だ。懐かしんで眺めるうち、一輪だけ、見事な漆黒を見付け、つい手が伸びた。
「お許しを」
花が喋ったかと思った。
窓から女が身を乗り出し、哀願する様に俺を見た。
「朝には萎む花です。そのままに」
瓜実顔を縁取って髪が傾れた。花へ零れ掛かる濡れ羽色は、黒い烏瓜の細かく裂けた花弁の様だった。
「なら、代わりに何をくれる?」
我ながら無茶だと思ったが、女は迷う眼をした。
気が動いて、夜明けまで女の処にいた。
割れた窓から差し込む光を浴び、異変を知る。
そこは荒れ果てた空き家で、朽ちた畳の上まで、緑の蔓に覆われていた。
蔓を掻き分けて垣へ到達すると、昨夜の烏瓜は、茶色く萎んでほたほた落ちていた。
黒い花の亡骸は、朝の中で鮮明に黒く、花後の子房は心なしか膨れて見えた。
ファンタジー
公開:19/08/17 20:04
画像の花は、亜種の黄烏瓜です。
着想:源氏物語『夕顔』×
上田秋成『雨月物語』より
浅茅が宿
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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