ぶらさがる空

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どこまでも続く広い海。
空も海も夫のシャツも青一色の夏の午後。私は砂浜のビーチパラソルの下で缶ビールを飲んでいた。天に届きそうな空き缶のタワー。我が家の夏の風物詩。
さざなみに、うとうとと、ふわふわが重なって、なんだかスカイハイな気分。
夫と息子のはしゃぐ声が遠くから聴こえて、それが夢か現か曖昧なのがうれしくて、もうひと缶と、クーラーボックスに手を伸ばしたときだ。不意に空が暗くなった。夕立というわけではなく、突然に空という幕が落ちてきて、視界を奪われた感じがした。
肌触りがいい。いいにおいがする。この布はなんだろう。
海の家から聴こえる布越しのボサノバはご機嫌で、海辺に遊ぶ誰もが、授業中に起きた停電のように、大きな布の下ではしゃいでいた。
帰り道、家族みんなで高台にのぼって、夕焼けの引き波にさらわれてゆく大きな布を見送った。
それは今まで見たことのない大きさの、青いブラジャーだった。
公開:19/08/19 16:38
更新:19/08/19 16:55

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