あとがない

4
11

阪神電車で難波の駅を発つと、次の桜川で海に出た。
地球規模で海水面が上昇して、関西でも浸食が進み、電車は海岸線を走っていた。
私はそのころ会社を早期退職して、地球防衛軍に入った。
「バッティングがいいね」
面接官にはそう評価された。
私は西宮で生まれて、仙台に暮らしていた。プロ野球選手だった父の影響で甲子園を目指し、東北の強豪校に野球留学をしたのが縁だ。チームは県大会で優勝したが甲子園球場が水没、本大会は中止となった。
その後、甲子園一帯は海水浴場になる。グラウンド湾の浅瀬に見え隠れするマウンドには海鳥が遊び、錆びた観客席は軍艦のように浮かんでいた。
かつての高校球児たちは甲子園の土を持ち寄り、浸食と戦った。
私は故郷を守るため、波打際の打席に立った。でも流星は打ち返せなかった。
冥王星に来た今シーズン。私は再び打席に立ち、この星を守る。
ドン!ズッドーン!
ちっ。追いこまれた。
公開:19/08/19 14:10
更新:19/08/22 11:17

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容