困惑島

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「人を捜してほしいの」
「どんな人を?」
「私を忘れてしまった人を」
困惑島の駐在所には、変わった旅人ばかりがやってくる。
年齢は20代と思われる女性。赤いギターに赤い唇。派手だけれど野暮ではなくて、垢抜けたセンスを感じる。ミュージシャンだろうか。この島の住人ではない。
「私を聞いて」
女は私を見つめたまま、細く長い舌を遊ばせた。
私は得体のしれない恐怖から、腰の拳銃に手を添えた。
突然、雄叫びをあげた女は、手を叩き、大地のリズムを呼び醒ます。ギターをかき鳴らし、歌い、踊りはじめた女は、地熱を放出するような熱い言葉で私を挑発した。たまらずに私が目をそらすと、女はそれで石になった。
また見つめることができなかった。
島内の至る所に石化した羅漢が点在するのは、私の覚悟のなさだ。課せられた責任はあまりに重い。
旅人たちはこの島で生きた証を残してゆく。
強くなりたい。
私は混迷島行きの船に乗った。
公開:19/08/15 10:55

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