一生花火

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常世では、霊魂の炎によって花火が点火されている。
人間に喩えれば、命を授かった母胎の中で生が宿るところから始まる。
どのような花火になるかは、あらかじめ常世で決まっているが、現世に生まれ出た時点で、その記憶は消去されている。
一生がひとそれぞれなのも花火の種類による。
打上花火なら、偉業を成し遂げて華々しい人生だが短命だ。
ねずみ花火なら、地面を勢いよく走り回ってから破裂するので、山あり谷ありの波乱万丈の人生を歩む。
そして、最も多いのが線香花火だ。打上花火のように華々しくはないけれど、細く長く地道に人生を歩み、火球が落ちるように、ふっと静かに寿命が尽きる。
どれも最後は消えて終わるが、その過程の輝き方は皆ばらばらだ。決して一生は、蝋燭の灯火などではない。
そして、霊魂が常世に戻り、再び花火が点火される。どの種類の花火になるかは、現世での行い次第だ。
これを「輪廻転生」と呼ぶ。
その他
公開:19/08/15 05:56
花火 お盆 霊魂 常世 現世

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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