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意識が覚めた時、身体は1本の蝋燭だった。
蝋人形と言った方が正解か。ポーズを取らされ、台座に固定されている。動く事はおろか、瞬きひとつ出来ない。
「思った通り。……美しい」
昂奮を抑え付けた、陰に篭もる声。
無遠慮な指が腕を辿り、手の甲へ口付けた。罠に嵌まった事は理解出来ても、内蔵も血液も蝋に変質し、元に戻す術はない。
「悪いのは貴方だ。僕の求婚を断らなければ、こんな事はしなかった」
彼と私は蝋燭屋の同僚だ。注射するだけで、死体を蝋燭に変える薬品を開発した。遺体の屍蝋化を急速に進める薬で、ペットや家族の遺体を、原型のまま残したいという要望に応える為だった。
生きた人間に作用すると思わなかったし、その後も意識を保つ事が可能だとも思わなかった。――少なくとも、私は。
「蝋燭であるからには、燃やさないと」
延髄にざくり、突き立つ感触。
マッチを擦る音に続けて、脊柱を芯に、うなじから炎が灯った。
蝋人形と言った方が正解か。ポーズを取らされ、台座に固定されている。動く事はおろか、瞬きひとつ出来ない。
「思った通り。……美しい」
昂奮を抑え付けた、陰に篭もる声。
無遠慮な指が腕を辿り、手の甲へ口付けた。罠に嵌まった事は理解出来ても、内蔵も血液も蝋に変質し、元に戻す術はない。
「悪いのは貴方だ。僕の求婚を断らなければ、こんな事はしなかった」
彼と私は蝋燭屋の同僚だ。注射するだけで、死体を蝋燭に変える薬品を開発した。遺体の屍蝋化を急速に進める薬で、ペットや家族の遺体を、原型のまま残したいという要望に応える為だった。
生きた人間に作用すると思わなかったし、その後も意識を保つ事が可能だとも思わなかった。――少なくとも、私は。
「蝋燭であるからには、燃やさないと」
延髄にざくり、突き立つ感触。
マッチを擦る音に続けて、脊柱を芯に、うなじから炎が灯った。
SF
公開:19/08/14 23:59
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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