雲海ボート

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さあ、出発しよう。

あの日から真っ暗な山道を歩き、山頂で待ち続けていた雲海が姿を現した。
おれ以外にも老若男女問わず大勢の人たちが、自分サイズの大小さまざまなボートで漕ぎ出すため、山頂で幾重もの列をなしていた。
このボートでは、相乗りはできず、自力で漕いで雲海を進む。不思議なことにボートを漕げそうにもない赤ん坊まで上手に乗りこなしている。

おれの順番が近づき、これより霊山から雲海を越えて常世へと向かう行程が、山頂の鳥居あたりに設けられたボート乗り場の案内掲示板に貼ってあった。
恐山、比叡山、高野山ーーここは三大霊山のどこかだろう。

いよいよ、冥途の旅が始まる。
その他
公開:19/08/16 19:41
更新:19/08/16 22:20
雲海 山頂 ボート

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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